note転載32 アナスタシア、あたらしいアタラクシア

すみだ河、にかかっている、言問橋(ことといばし)の、袂にたって、自分の由来をこととい始めていたの。おととい、生まれたばかりのわたしのことをことほいでいた、朝露の球面によじれて、ほころびはじめている、木苺たちの庭園に向かって、したように。

 顔を見せない天使たちの、気まぐれな恩寵にことほがれたように、愛の力で、脈拍みたいに生々しくなり、ルビーみたいにつややかになった、海月(くらげ)みたいな、乙女だったの、わたしは。――紅葉苺や苗代(なわしろ)苺、梶苺や苦苺、冬苺。埋め尽くされたよう、さまざまにひづんだ無数の球体、愛らしく酸っぱい果物の群霊だったの。いつでもたやすく散らかって、踏み潰されては果汁に変わる、そんな存在だったの。

 わたしは、ルビーみたいな海月の変種だったから、水の底にある竜宮の、海神の国からやってきた、しららしららと揺れる光を、波間みたいに浮かべて笑った、あなたにむかって。

 それは他界からの秘密めかした音信でもあったの、ひとすだま、ふたすだま、わたしの魂は極地に棲んでいる軟体動物の血液みたいに、秘密めかしたサファイアみたいに、深く滑らかな青色だった。わたしはトヨタマヒメという名前がついていて、さまざまな爬虫類に化けることができた、水頭症にかかったアオダイショウみたいに、奇妙な衣装で、意表をつきながら。

 いつでもささやかに不安定で、行方不明になってしまった、アナスタシア公女のように、謎めいた美しさで、泡水晶を吹き流しているみたいに、透明度の高いうろこ雲が、空を流れていた。火にくべられた、アルラウネたちが未来を予言していた、わたしは変温動物みたいに環境に依存した。環境依存文字みたいに果敢ない命だったの。いつも辻占いをするように橋占いをしていた。いつかわたしを、水の底にある竜宮の、海神(わだつみ)の国から連れ出してくれる、あなたのことを待ちながら。

(2017年執筆 2018年完成)

 

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