note転載

note転載13 雨の婚礼

――小さな白い絹糸たちが、うつむきがちに、明滅している、しんしんと、幼い鳥の羽根音みたいな音が、ずっと続いている。窓の外では、しとしとしとしと、雨が降っている、水素と酸素の混ぜ合わさってできた、あの顔見知りの球体たちは、連綿とした白い糸たち…

note転載12 宇宙的な相模原市

青褪めた顔をして、みどり色をしている、風の分子たちは、喉と鼻腔に痛みを与えた。 彼の空間は、一度にすかすかになってしまった。 浸透圧が一気に低くなったような気分が、自分の体中を内側と外側から、被覆するように包み込んでいくのを感じた。あるはず…

note転載11 相模原で 1

散らばる事をやめない太陽の光の自然さを感じていた。けれどもそれは普段のようではなかった。おぞましいくらいに、やさしくて明るく、冷たい輝きだった。――僕は自分自身の心理的なリアリティーの中にあまりにも沈みこんでしまった、そう彼は感じた。――風景…

note転載10 木造アパートの幽霊

中央線の、高円寺駅から北口を十五分程度歩くと、街の賑わいは消え失せて、昭和の匂いをそこここに残した、人通りの少ない――鄙びた街並みが顔を覗かせます。――小さな建物の入り組んでいる、奥まった場所には、長屋のような、旧い集合住宅があります。 その古…

note転載9 風子の記憶

――履いている靴のつま先のあたりで、微かな土埃たちと一緒に、湿気の抜かれたそよ風が、そよそよとふきつけてきます。そこいらにまばらに生えている、淡い色をしたイネ科の植物たちは、鋭い葉先を繊ケと鳴らしています。 植物たちは、そうすることで、風の精…

note転載8 蜘蛛の転身

春の夜だった。上野公園では外灯の照明が仄かに呼吸していた。瑣末な動きが秋爾(しゅうじ)の目にとまった。――植え込みの躑躅の茂みでは、上下左右に込み入っている木の葉や枝枝の間隙に、透明な投網でできた足場が、十重二十重にも指し渡されていた。そこ…

note転載7「最初にあった、ということの本当らしさよりも、後から来た、ということの欺瞞性を愛する、という倫理、あるいは、人工的であることの倫理性について」

2018年の注記:以下の文章は2011年にクレマスターという場所で行われた発表の原稿です。当時のわたしはフランスの精神分析家である、J・ラカンに私淑していました(ちなみにこのころわたしは伊藤嵯輝(いとうさき)という名前を名乗っていました)。こ…

note転載6 ラピスラズリ

赤い柘榴の実が黒い道路に落ちているその傍で風に揺れているカタバミの花のように白いきみの亡霊は金木犀のように甘い匂いを薫らせていたっけ藍色の枯葉が薄い桜色の空に散っていくのを背にしてハチミツの色をした豊かな髪の毛が湿った空気に輝いていたっけ…

note転載5 シダリイズ

自分が殺されてしまったことを知った神様が両眼から三つ編みの血の雫を流しているとても高い塔の見晴らし台で緑色の水溜まりに寝そべって裸になった彼女の心はゆびさきで瞳の奥に絵を描いているきみの母親はまるできみと瓜二つ淡い紫色とスミレ色が混ざり合…

note転載4 あかしあのくにの、あのこのうたう、あそびうた

あめつちの、はじまるころから、あわのようにさきみだれている、あねもねに、あけびにあざみにあいりすのはな、あかつきの、あえかなひかりのあやおりもように、あたためられて、あけがたいろに、そめられている、あぜみちを、あせばむからだであるきつづけ…

note転載3 こぎれいな小品たち

1、レシート わたしは昔、テーブルの上に、放って置かれて、丸められているレシートの塊みたいに、ぽつんと一人で生きていられたら、どんなにいいかと思っていたっけ。でも、その思い出のイメージも、今はもう、短い言葉に纏められ、くしゃくしゃにされ、球…

note転載2 シャワー

ほのじろい水のつぶてが、たわたわとうちつけてきて、気立てのよかった裸の気分を、すっかりこそぎ落としていく。かすかな衝撃の連続が、自我を繰り返して消滅させては再生させていく。向こうで開いた、脱衣所に通じるドアのむこうに、見覚えのある女の影が…

note転載1 食器棚は、やわらかくなった光をそこらじゅうで溢れださせる。

皿から皿へ、次から次に、ナイフが、フォークが、フルーツナイフやフィッシュナイフが、サラダフォークやミートフォークが、映って、移って、何度でもきらめていく、いろいろな人の顔つき、でも、誰の顔かは思い出せない、瞳から瞳へ、フォークが映り、ナイ…

予定を変更します。

というわけで予定を変更することにしました。 え?何がって? まあまあちょっと聞いてくださいよ、そこのあなた。 10月に今まで書いた詩や小説その他をnoteにまとめる、ということをしました。 詳しくはこちら↓ pagansynonym.hatenablog.com ---------------…