note転載27 竜たちが見ている

いつまでも、
頭上にシリウスをいただいている、
知恵の梢のあしさきで、
竜たちがうごめいている。

早ヶに、想起するよりあきらかに、
わたしは、またたくように逃げようとして
しくじり続けていたの、
そうして自分をくじいてしまい、
気づいたらわたしは、
竜たちの棲み家になっていたの。

あしひきの、竜たちの尾の、
あらあらしい泡たちが、
あしびの花のようにあふれている、
そんな洗い場を
すみずみに感じると、

わたしの体はちぢんでいって、
ぐんぐん圧縮されてって、
もう存在が痛くなって、
イバラに巻かれた、ナイル河みたいに氾濫するので、

思わず竜たちを放し飼いにしたら、
竜たちはにべもない顔をして、
どこどこへでも、
まるで
都会に感染していくはしかみたいに、
断続的に飛んでいってしまうの。

知恵の輪のように入りくんでいる、
沿岸地帯で、
みさきのへりで、
むこうから飛んでくる、
おそろいの竜たちに撒き餌をしながら、
巻添えになったわたしの心地は、
じぶんじしんのミササギの上で、
ミサを続けるサギたちのよう。

サザンカの花が
さえざえかなでる、
爽やかな匂いと、
うろこの合間でたちこめる、
蟻酸のようにさぎさぎとした香りに、
立ちくらみを覚えるみたいに、
ひさんな顔して、
ほんろうされて、
じぶんを見失ってしまったの。

――ほら、ごらん、
風あざみ、
七色のゼリーみたいに、
きらめいている竜たちが、
ひさしのむこうで遊んでいる昼下がり、
いくらでもいくらでも、
融合したり分裂したりしている、
絡みあったり、噛み合っている、
ゆがんだ鎖のウロボロスたちが、
連なるみたいに、
たくさんのメビウスの輪がリボンになって、
アラベスクを作っている。

――ほら、ごらん、
瀬をはやみ、
風にさかれる竜たちは、
ヒドラみたいに首を増やして、
寒椿の花を喰んでいる。
もうすぐ干魃がおとずれるかもしれない
と思う、
こんなにしっとりした森の中にいるのに。

しんらつな甘やかさが、
ひえびえしい眼差しみたいに、
夕立のあとの空を流れている。

竜たちは、
世界のさまざまなレイヤーに幾重にも生息していて、
わたしはどこにいても見つけられてしまうし、
自分でもどこにいるかすぐにさがしてしまう。

それに口から竜をよく吐き出してしまう、
まだ小さい子ならかわいいけれど、
大きかったら、周り中を混乱に陥れてしまうの。

だから職場では随分文句を言われて、
会社に壊滅的な打撃を与えたこともあったわ、
だから竜たちをにくんだりもした、
でも大好きだったの。

だって竜たちはね、一緒にいれば、
とても遠い土地にまで飛んでいけるし、
自分だけではできない事も色々できる。
それに竜は場合によってはとてもきれいなの。
それにとても強いの。

でも竜たちは何を考えているのかよくわからないし、
ひとを傷つけてもなんにも思わないようにできてるの、
それにわたしをどんなに傷つけてもなんにも思わないの、
だから竜たちのことは今でもよく怖くなる。

蔓草に、
からみつかれるまくわうりみたいに、
薄口なわたしは、
いつでも竜たちとまぐわっていた。

だから自分と竜との境目がよくわからなくなるのだった。

――世界と竜との境目も。

わたしはすべての樹のうろに、
わたしのうつろな玉の緒に、
みそらの果てに、
ふおんな大都会の曇り空に、
竜たちをみる。

鬱蒼としげった森のなかに、
ひとびとが鬱蒼と茂っている、
プラットフォームに、
わたしたちとウリフタツに見える、
ひとのことばの鏡に映る、
憂鬱なかおしたひとたちの合間に、
竜たちをみつける。

どこにもそこにも、
竜たちが住んでいて、
それはいつでもわたしを見てるの。

(2017年)

 

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