note転載6 ラピスラズリ

赤い柘榴の実が黒い道路に落ちている
その傍で風に揺れている
カタバミの花のように白い
きみの亡霊は
金木犀のように
甘い匂いを薫らせていたっけ
藍色の枯葉が
薄い桜色の空に散っていくのを背にして
ハチミツの色をした豊かな髪の毛が
湿った空気に輝いていたっけ
消毒液の
塩素の匂いが懐かしいってきみはいう
どんな景色を
写真みたいに
魂の形に焼き付けていたの
きみの真っ黒になった肺を愛でるように
自分自身を惑わす言葉が出て行く口もとを
白いフリルの着いた胸元に押し当てた
緑色に透き通った美しいかけらたちに囲まれて
大学病院のその部屋のベッドに
革紐を通された小さな銀細工の教会が
忘れ物のように
置き去りにされて
セピア色に冴え返っていく
ラピスラズリの空の蒼さを
憧れみたいに反映させてた
それはぼくたち二人のために用意された
結婚式場
石畳の上に
鹿の子百合の花が散り敷かれて
雨にぬれているのを
見過ごしてしまえる
冷ややかな世界に
向こうをはって
きみは会うたび                        
つまらない真実よりもずっと本当らしい
嘘をついてた

僕はといえば
言い捨ててしまった悲しい言葉を
裏返しにして
血のように酸っぱい
きみのからだを昏々と脈打っている
だれにも見えない真実を
世界に繋ぎ止めておくことのできる
黄金色をしている無意識の鎖を
いつも探して
歩いていたっけ

(2011年)

 

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