note転載5 シダリイズ

自分が殺されてしまったことを知った神様が
両眼から三つ編みの血の雫を流している
とても高い塔の見晴らし台で
緑色の水溜まりに寝そべって
裸になった彼女の心はゆびさきで
瞳の奥に絵を描いている
きみの母親はまるできみと瓜二つ
淡い紫色と
スミレ色が混ざり合った水蒸気になって
いつまでも
いつまでも同じまじないをくちづさんでいる
天使たちの羽根だけが舞い降りて
ちぎれたガラスの綿毛みたいに
オレンジ色の夕暮れの響きを
ほんのりとうつしている
まるで天国から見棄てられたせいで
街中に散り敷かれている
まがいものの宝石に囲まれているみたいに
きみは
今だけはほかのものは何もみたくないとでも
いいたげな横顔のままで
うづくまる
星空の暗さとやさしさを閉じ込めたみたいに
黒く美しいその髪の毛を
いつか自分が自分になる前の
あの懐かしい夜の不安が遺してくれた
かけがえのない贈り物みたいに
いつくしみながら
冬の地平線の向こう側から
口を開いてやってくる
鮮やかな緋色の未来の予感を
飲みほしていく僕の背中は
ウルトラマリンの原石みたいに
黄金色をした海の故郷に
沈みこんでいく夢の気配に
次第次第に
浸されていく

(2011年、タイトルはG・ネルヴァルの詩からの引用)

 

※note転載の詳細はこちら⇩ 

予定を変更します。 - Keysa`s room

 

2002年から2018年までに書いた詩や小説などをnoteにまとめました。 - Keysa`s room