散文詩

note転載41 一粒の砂

わたしは無でできている、その無は世界がわたしの中で裏返しになることで成立している。わたしは裏返しだった。つまりかつてわたしがわたしだと感じていたものの反対側にわたしはいるのだった。 昔は自分を畸形のように考えていた、でも実際には畸形でさえな…

note転載37 セフィロトの、ときじくの香の、世界樹の

様々な細部に至るまで、まことしやかにカミ宿らせて、宿り木みたいに清らかに、宿るヒタイに秘められて、さかさになった、五月雨みたいにしらしらと、鳴りそめている、樹の子のムスコたちが、樹の葉のムスメたちが、むすびついてはコケムシて、言祝ぐように…

note転載36 しられない、シルフのシイタのシタサキで

いつでもどこでも、シラフのふりして、知らんぷりして、ブラフをかけてしまう、いつでもどこでも、大事なことを、しらべもしないで、しらせもしないで、しらをきってしまう、とってもすなおな、わたしたちの愛は、ミロクのシルクの糸よりも、地獄の天からお…

note転載34 セクレタリーズ・セメタリー

ひとさらひらいた、人さらいたちや、人たらしたちや、人さらしたちが、人さがしたちが、出没するって、そういう噂の、ヒンガシの野に、龍たちの棲む、彼岸へむけてのかぎろひが立っていた。 * * * ひらひらと、薔薇色とスミレ色になってゆれている、日向…

note転載33 歩き巫女

わが子は十余になりぬらん、巫(かんなぎ)してこそ歩(あ)りくなれ、田子の浦に汐(しお)ふむと、いかに海人集ふらん、正しとて、問ひみ問はずみ嬲るらん、いとをしや(梁塵秘抄より) * * * 彼女は人魂の霊力を増幅させる、いにしえからの能力を学ぶ…

note転載32 アナスタシア、あたらしいアタラクシア

すみだ河、にかかっている、言問橋(ことといばし)の、袂にたって、自分の由来をこととい始めていたの。おととい、生まれたばかりのわたしのことをことほいでいた、朝露の球面によじれて、ほころびはじめている、木苺たちの庭園に向かって、したように。 顔…

note転載31 赤坂見附の、ミトコンドリアのお嬢さん

「センモンカ、たちのあいだでは、あまたの異論が、ホウセンカ、みたいに、はじける様子で、入れ子状になって、はじらいながらまどろんでいる、イロンという名の、ヒミツの古城が、情緒不安定気味に、複雑怪奇な旋律を奏でる、そんな呼子笛を吹いている、小…

note転載29 楓子ちゃんとトリスタン

「そう、赤いおでこをした楓子(かえでこ)ちゃんだったの、わたし、たくさんの猫たちのスミカになっているというトネリコの木の上で、おどおどと挨拶をする、踊り子ちゃんたちと一緒だったの、わたし、トルコ石とトルマリンでできた、何かヒトを不安にさせ…

note転載25 アジサイ色の未亡人たち

「ニセキレイな黄鶺鴒(きせきれい)が奇跡の霊になって奇声をあげている、蒸し蒸しした湯圧のふしぶしで、赤い色の紅玉たちに点綴されている、水のような宝石になった虫たちがつぎつぎにしたたっている、雨林(うりん)の合間で、アマテラスの花をちぎって…

note転載14 水性少女

平坦な水面から、白い蒸気が浮かび上がっていき、天上から引っ張られていくのに従って、そろそろそろそろ、という風情で、ゆるやかに、たおやかな速度で曲線から直線になっていき、あたりをひょろひょろ見回してから、抜き足になって、そろそろそそろと歩い…

note転載13 雨の婚礼

――小さな白い絹糸たちが、うつむきがちに、明滅している、しんしんと、幼い鳥の羽根音みたいな音が、ずっと続いている。窓の外では、しとしとしとしと、雨が降っている、水素と酸素の混ぜ合わさってできた、あの顔見知りの球体たちは、連綿とした白い糸たち…

note転載12 宇宙的な相模原市

青褪めた顔をして、みどり色をしている、風の分子たちは、喉と鼻腔に痛みを与えた。 彼の空間は、一度にすかすかになってしまった。 浸透圧が一気に低くなったような気分が、自分の体中を内側と外側から、被覆するように包み込んでいくのを感じた。あるはず…

note転載11 相模原で 1

散らばる事をやめない太陽の光の自然さを感じていた。けれどもそれは普段のようではなかった。おぞましいくらいに、やさしくて明るく、冷たい輝きだった。――僕は自分自身の心理的なリアリティーの中にあまりにも沈みこんでしまった、そう彼は感じた。――風景…

note転載4 あかしあのくにの、あのこのうたう、あそびうた

あめつちの、はじまるころから、あわのようにさきみだれている、あねもねに、あけびにあざみにあいりすのはな、あかつきの、あえかなひかりのあやおりもように、あたためられて、あけがたいろに、そめられている、あぜみちを、あせばむからだであるきつづけ…

note転載3 こぎれいな小品たち

1、レシート わたしは昔、テーブルの上に、放って置かれて、丸められているレシートの塊みたいに、ぽつんと一人で生きていられたら、どんなにいいかと思っていたっけ。でも、その思い出のイメージも、今はもう、短い言葉に纏められ、くしゃくしゃにされ、球…

note転載2 シャワー

ほのじろい水のつぶてが、たわたわとうちつけてきて、気立てのよかった裸の気分を、すっかりこそぎ落としていく。かすかな衝撃の連続が、自我を繰り返して消滅させては再生させていく。向こうで開いた、脱衣所に通じるドアのむこうに、見覚えのある女の影が…

note転載1 食器棚は、やわらかくなった光をそこらじゅうで溢れださせる。

皿から皿へ、次から次に、ナイフが、フォークが、フルーツナイフやフィッシュナイフが、サラダフォークやミートフォークが、映って、移って、何度でもきらめていく、いろいろな人の顔つき、でも、誰の顔かは思い出せない、瞳から瞳へ、フォークが映り、ナイ…