note転載34 セクレタリーズ・セメタリー

ひとさらひらいた、人さらいたちや、人たらしたちや、人さらしたちが、人さがしたちが、出没するって、そういう噂の、ヒンガシの野に、龍たちの棲む、彼岸へむけてのかぎろひが立っていた。 * * * ひらひらと、薔薇色とスミレ色になってゆれている、日向…

note転載33 歩き巫女

わが子は十余になりぬらん、巫(かんなぎ)してこそ歩(あ)りくなれ、田子の浦に汐(しお)ふむと、いかに海人集ふらん、正しとて、問ひみ問はずみ嬲るらん、いとをしや(梁塵秘抄より) * * * 彼女は人魂の霊力を増幅させる、いにしえからの能力を学ぶ…

note転載32 アナスタシア、あたらしいアタラクシア

すみだ河、にかかっている、言問橋(ことといばし)の、袂にたって、自分の由来をこととい始めていたの。おととい、生まれたばかりのわたしのことをことほいでいた、朝露の球面によじれて、ほころびはじめている、木苺たちの庭園に向かって、したように。 顔…

note転載31 赤坂見附の、ミトコンドリアのお嬢さん

「センモンカ、たちのあいだでは、あまたの異論が、ホウセンカ、みたいに、はじける様子で、入れ子状になって、はじらいながらまどろんでいる、イロンという名の、ヒミツの古城が、情緒不安定気味に、複雑怪奇な旋律を奏でる、そんな呼子笛を吹いている、小…

note転載30 想像の別れ

1 大勢の人たちが、慌ただしそうに歩いていく。その人影に、紛れるみたいにして、僕は、橋本駅に立っている。そこは西口の、JRから、京王線へと続いている、乗り換えのための連絡通路だった。 急ぎ足の人たちでできている、温度や靴音や、構内独特の、かす…

note転載29 楓子ちゃんとトリスタン

「そう、赤いおでこをした楓子(かえでこ)ちゃんだったの、わたし、たくさんの猫たちのスミカになっているというトネリコの木の上で、おどおどと挨拶をする、踊り子ちゃんたちと一緒だったの、わたし、トルコ石とトルマリンでできた、何かヒトを不安にさせ…

note転載28 なまえは、シルカ?

白くて、つややかで、ちみつな鱗片に被われた、きらめける、くちなわの皮膚で、リリフリリ、皮膚、で、できている、シンセイ、シィツの、いりくちにまで、流された、かけらのような、超新星、宙に引く尾は、包帯をする、銀貨みたいな、玉の緒の、――ペンダン…

note転載27 竜たちが見ている

いつまでも、頭上にシリウスをいただいている、知恵の梢のあしさきで、竜たちがうごめいている。 早ヶに、想起するよりあきらかに、わたしは、またたくように逃げようとしてしくじり続けていたの、そうして自分をくじいてしまい、気づいたらわたしは、竜たち…

note転載26 かみさまにささげるしをつくる

ぼくはかみさまにささげるしをつくるよ。しはつりばりみたいなかたちをしてるから、かみさまののどもとにひっかかって、つりあげられるんだ。 でもかみさまなんていないってきみはいうね。かみさまはことばだって。でもことばってなんだろう?いないってなん…

note転載25 アジサイ色の未亡人たち

「ニセキレイな黄鶺鴒(きせきれい)が奇跡の霊になって奇声をあげている、蒸し蒸しした湯圧のふしぶしで、赤い色の紅玉たちに点綴されている、水のような宝石になった虫たちがつぎつぎにしたたっている、雨林(うりん)の合間で、アマテラスの花をちぎって…

note転載24 さよなら、ミゾノクチのえきで、澄んでいるひと

あなたのかんばせの道沿いは、柵と策とで囲まれていた。その溝の口の駅に水のように澄んでいる人が、自分をポケットから落としてしまった時にできた、切り傷のついた、縁取りを気にしながら正しいことを言っているのに、いつでも気圧されてしまうから、 わた…

note転載23 さいしゅう、かいけつ

さいしゅう かいけつして、カンガルーの国に、移送されたわたしは、むしとりあみで舗装したみちを、アルコールなしで、ゴールをめざした。わたしを無視して、無私なわたしはたわしでよかった、たわわになった、かたわでもよかった。大地の上で。 大事なこと…

note転載22 トガをせびったゆびさきの、姫さま

ミンカでミントがミンクの毛触りをして、虫のしずくのように、ひとみをみたしていたのを、まなかいにして、すべりだいを呑み放題にしたような、転落していく人生を飲みほして、永遠に若返ったの。 だからたからものをたかりにやってくる、おたかくとまったハ…

note転載21 喪に服する

彼はあの冬にここからいなくなったそしてフィクションの世界の住人になった彼がたどり着いた場所について、きみは考える きみはこの寒い星にきた異邦人だと感じるなぜ人に意識があるのだろうどうして人は、うまくいかない時にだけ理由を考えるのだろう彼は命…

note転載20 石田三成とアセンション

それは随分古い、昔の話だった。まだ帝(みかど)が京の御所におわして、けれどもこの国の権力は武家政権のものだった時代の、遠い話だった。時代の趨勢を決める、大きな合戦が関ヶ原で起きた。血と硝煙と、人馬と土ほこりとがあたりに立ち込め、悲鳴と怒号…

note転載19 躑躅の花と、存在しない一橋学園

――するるするると、曲がりくねって伸びていく、蔓草たちに取り巻かれている、にぎやかな街角が、そこにあります。 様々に着飾った人々の群れを縫うようにして、どこまでもどこまでも歩いていきます。 そうしてそうして、曲がりくねった坂道を昇ると、濃い緑…

note転載18 エデンの林檎のアップルケーキ

ひとつの戯曲を思いつく。「エデンの林檎のアップルケーキ」って、いうタイトルの戯曲。その舞台では、原罪は砂糖漬けにされている。知の背徳は、シナモンの匂いを薫らせる。――苦い紅茶で口直しするために、人類は荒野に追放される。荒野でハーブを育てるた…

note転載17 死にたくなるクリスマス

クリスマスだ。街は人でたくさん。だけれど僕はもうたくさんだ。結局なんにもなりはしない、どんな音楽が流れていても、どんな本を読んでも、画集を紐解いてみても、心が晴れることなどある筈もない。 新宿の街のスクランブル交差点からストリートヴューを見…

note転載16 地下鉄とおにゅそと食べっこ動物

1 記憶の奥底に、黒い漏斗のように広がっている、地下の世界には地下鉄が走っている。地下鉄は、蟻塚の中身のように、複雑な迷路のように展開されている。 ――わたしは、その地下鉄の中にいる。遠くから見ると、きっと、小さい、こども向けの人形のようにや…

note転載15 織野姫子のモノローグ

さまざまなもの思いに耽りながら、わたしはしだいに眠りについた。するするするする、ゆるやかにしずかに、吐き出されていく蜘蛛の糸みたいに。織野姫子、という名前で呼ばれる、普段の自分から、遠ざかって。そのくらがりから、たちこめてくる水の匂いは、…

note転載14 水性少女

平坦な水面から、白い蒸気が浮かび上がっていき、天上から引っ張られていくのに従って、そろそろそろそろ、という風情で、ゆるやかに、たおやかな速度で曲線から直線になっていき、あたりをひょろひょろ見回してから、抜き足になって、そろそろそそろと歩い…

note転載13 雨の婚礼

――小さな白い絹糸たちが、うつむきがちに、明滅している、しんしんと、幼い鳥の羽根音みたいな音が、ずっと続いている。窓の外では、しとしとしとしと、雨が降っている、水素と酸素の混ぜ合わさってできた、あの顔見知りの球体たちは、連綿とした白い糸たち…

note転載12 宇宙的な相模原市

青褪めた顔をして、みどり色をしている、風の分子たちは、喉と鼻腔に痛みを与えた。 彼の空間は、一度にすかすかになってしまった。 浸透圧が一気に低くなったような気分が、自分の体中を内側と外側から、被覆するように包み込んでいくのを感じた。あるはず…

note転載11 相模原で 1

散らばる事をやめない太陽の光の自然さを感じていた。けれどもそれは普段のようではなかった。おぞましいくらいに、やさしくて明るく、冷たい輝きだった。――僕は自分自身の心理的なリアリティーの中にあまりにも沈みこんでしまった、そう彼は感じた。――風景…

note転載10 木造アパートの幽霊

中央線の、高円寺駅から北口を十五分程度歩くと、街の賑わいは消え失せて、昭和の匂いをそこここに残した、人通りの少ない――鄙びた街並みが顔を覗かせます。――小さな建物の入り組んでいる、奥まった場所には、長屋のような、旧い集合住宅があります。 その古…

note転載9 風子の記憶

――履いている靴のつま先のあたりで、微かな土埃たちと一緒に、湿気の抜かれたそよ風が、そよそよとふきつけてきます。そこいらにまばらに生えている、淡い色をしたイネ科の植物たちは、鋭い葉先を繊ケと鳴らしています。 植物たちは、そうすることで、風の精…

note転載8 蜘蛛の転身

春の夜だった。上野公園では外灯の照明が仄かに呼吸していた。瑣末な動きが秋爾(しゅうじ)の目にとまった。――植え込みの躑躅の茂みでは、上下左右に込み入っている木の葉や枝枝の間隙に、透明な投網でできた足場が、十重二十重にも指し渡されていた。そこ…

note転載7「最初にあった、ということの本当らしさよりも、後から来た、ということの欺瞞性を愛する、という倫理、あるいは、人工的であることの倫理性について」

2018年の注記:以下の文章は2011年にクレマスターという場所で行われた発表の原稿です。当時のわたしはフランスの精神分析家である、J・ラカンに私淑していました(ちなみにこのころわたしは伊藤嵯輝(いとうさき)という名前を名乗っていました)。こ…

note転載6 ラピスラズリ

赤い柘榴の実が黒い道路に落ちているその傍で風に揺れているカタバミの花のように白いきみの亡霊は金木犀のように甘い匂いを薫らせていたっけ藍色の枯葉が薄い桜色の空に散っていくのを背にしてハチミツの色をした豊かな髪の毛が湿った空気に輝いていたっけ…

note転載5 シダリイズ

自分が殺されてしまったことを知った神様が両眼から三つ編みの血の雫を流しているとても高い塔の見晴らし台で緑色の水溜まりに寝そべって裸になった彼女の心はゆびさきで瞳の奥に絵を描いているきみの母親はまるできみと瓜二つ淡い紫色とスミレ色が混ざり合…